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AIエージェントが部の定型業務を無人でこなす会社では、担当者への依頼を誰の名前で出すか ── 代理から自動へ移る段階で作るAI専用のID

ツバイソの印具です。

基幹システムの商談を毎朝点検する作業をAIエージェント(以下、AI)が無人で行うようになると、次回の行動予定の登録を促す依頼が、AIから担当者へ届きます。その依頼は、誰の名前で出せばよいのでしょうか。

私は、AIが送る場合でも依頼は部長の名前で出すべきだと考えます。責任は、部の業務を任された部長に残ります。差出人の名前だけをAIにすると、担当者からは責任者が見えなくなります。

無人にする前に、部長が自分でAIを実行し、送信前に下書きを確かめる「代理」から始めます。部長が操作しなくても動く「自動」へ移る段階で、AI専用のID(Slackのボットユーザー、Salesforceの連携用ユーザーなど)を発行します。このIDは認証情報・権限・記録などを部長個人から切り離すためのもので、依頼の名前は部長のままです。自動にすれば、部長は毎朝の点検をAIに任せ、判断の要る商談に時間を使えます。

部長の代理から始めて、自動にするときにAI専用のIDを作る。どちらの段階でも、担当者への依頼は部長の名前で出す
部長の代理から始めて、自動にするときにAI専用のIDを作る。どちらの段階でも、担当者への依頼は部長の名前で出す

事実の通知はAIの名前、依頼は部長の名前で出す

部長から担当者への連絡は、AIの関わり方で4つに分けられます。表は自動の段階で、「営業部長のAI」はAI専用のIDの名前です。

連絡の種類 例 送るID 冒頭に出す名前 AIの役割
事実の通知 今朝の点検で、あなたの商談に登録漏れはありませんでした 営業部長のAI 営業部長のAI 送る
定型の依頼 商談Aの次回の行動予定を、今週中に登録してください 営業部長のAI 部長 承認された定型文どおりに送る
判断が要る依頼 失注の兆しがある商談Bの方針を見直してください 部長 部長 下書きして部長へ回す
評価や気持ちを伝える連絡 今月の受注へのねぎらい 部長 部長 書かない

定型の依頼は、冒頭に「営業部長〇〇に代わって、AIが送信します」と記し、部長を宛先に入れて返信を部長に届けます。「商談Aに登録漏れがあります」のように事実を知らせる文面でも、行動を求めるなら依頼です。

担当者は、部長の名前の依頼を責任者の指示として尊重し、誤りがあれば部長に確認や修正を求めます。AIは依頼の結果に責任を負えず、AIの名前の依頼では誤りを確かめる先が分かりません。

起案した人と名前の人が違うのは、組織では普通の形

部長が書いていない文を、部長の名前で出してよいのか。組織の文書は、担当者が起案し、決裁権者が決裁して、その名前で出します。決裁規程で長の権限の一部を下位の者に委ねる専決でも、対外的な名義は長のままです。重要な案件や異例の案件は、上位の者が決裁します。

ただし、専決をする者は自分の判断に責任を負いますが、AIは負いません。そのため、名前と責任は部長に残し、次の3つを決めます。

  1. 依頼の定型文と送信の基準は、部長が承認する
  2. 定型文に当てはまらない依頼は、送信前に部長へ回す
  3. 部長が確かめずにAIが送る連絡には、AIが送ったことを明示する

送信後は、AIが毎朝部長へ報告し、部長は送信の記録と合わせて確かめます。

3つ目の根拠として、アリゾナ大学の研究者の実験では、AIを使ったと本人が明かすと、その人への信頼が下がりました。他人から明かされた場合は、さらに大きく下がりました。確かめずにAIが送った連絡を部長が書いたように見せると、後から知られたときに、部長への信頼がより大きく下がります。

まずは部長の代理として動かす

導入は、図1の2段階で進めます。代理の段階では、部長がAIに渡す手順書(対象の条件・依頼の定型文・部長へ回す条件)を書き、毎朝自分でAIを実行して点検させます。どの連絡も部長が確かめて自分のIDで送り、文責を持つので、AIが下書きしたと付記する必要はありません。認証情報が部長の手元から出ず、操作も部長の記録に残るので、AI専用のIDは不要です。ただし、システム管理者を兼ねるなど部長の権限が広すぎるなら、代理の段階から権限を絞ったAI専用のIDを使います。

下書きを修正せずに送信できる日が続き、部長がその場で確かめなくてよいと判断したら、自動へ移ります。AI専用のIDは、情報システム部門(情シス)が発行し、管理します。

自動にするときは、部長個人から切り離すためにAI専用のIDを作る

AI専用のIDとは、AIがシステムに接続するためのアカウントで、システムごとに発行します。毎朝の点検なら、商談を読むIDと、担当者へ依頼を送るIDを使います。主なサービスでの呼び名は、次のとおりです。

サービス AI専用のIDの呼び名 例での役割
Salesforce 連携用ユーザー(Salesforce Integrationユーザーライセンス) 商談を読む
Slack Slackアプリのボットユーザー 依頼を送る
Microsoft Teams ボット(Microsoft Entra IDに登録したアプリ) 依頼を送る
Outlook Microsoft Entra IDに登録したアプリ(送信元はAI用の共有メールボックスに限定) 依頼を送る
Google Chat Chatアプリ(サービスアカウントで認証) 依頼を送る

どれも画面からはログインせず、操作できる範囲は管理者が設定で絞ります。利用者になりすまして操作できる設定は、記録上その人の操作になるので使いません。

無人で動かすときは、部長のIDでなくこのIDを使います。AIの名前で依頼を出すためではありません。理由は4つです。

理由 部長のIDのまま無人で動かすと 営業部長のAIなら
認証情報の置き場所 部長のパスワードなどを自動実行の環境に保存する AIの認証情報だけを保存し、情シスが管理する
権限 部長の権限のすべてをAIが使える 付与した権限だけを使える
記録 部長とAIの操作を記録で区別できない AIの操作として記録される
異動・退職 異動で権限が変われば処理の範囲も変わり、退職でIDが無効になればAIの処理も止まる 部長の在籍に関係なく動く

AIに何をさせるかはIDでなく、部長が書く手順書で決まります。同じ仕事なら、使うAIを替えても同じIDを使えます。部長が替われば、IDはそのままで責任者を替え、新しい部長が定型文を承認し直します。そのため、表示名は役職名で「営業部長のAI」とし、部長の氏名は定型文の冒頭に記します。

部長以外が任せるときは、任せた人の名前で出す

部下が手順書を書き、自分の業務としてAIを動かすなら、名前はその部下です。部長のいない組織では、仕事を任せた責任者と読み替えてください。情シスのいない会社では、任せる本人以外のシステム管理者がAI専用のIDを発行し、権限を付与します。無人で動かすための定期実行や監視の作り方は、次の記事で扱います。

出典

  • University of Arizona News・Disclosing AI use can backfire, research shows・2025年・https://news.arizona.edu/news/disclosing-ai-use-can-backfire-research-shows
代表取締役 CEO 印具 毅雄(イング タケオ)

ツバイソ株式会社

公認会計士、税理士

広島生まれ、福岡育ち。中学生の頃からパソコン、プログラミングが好きで、N88-BASICやマシン語に親しむ。大学、大学院では、AI関連技術のニューラルネットワーク、ファジィシステムとともに遺伝的アルゴリズムの改善研究をC言語で行う。 1999年、修士(芸術工学)。日本知能情報ファジィ学会論文賞受賞「単峰性関数当てはめによるGA(遺伝的アルゴリズム)収束高速化」
インターネットベンチャーを立ち上げるべく、経営の勉強のために公認会計士を取得(公認会計士二次試験2000年合格、登録番号19193)。監査法人トーマツ(Deloitte)を経て、2006年にブルドッグウォータ株式会社の創業、事業開始。 2015年、同社よりRobotERPツバイソ事業を会社分割し、ツバイソ株式会社を設立。

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